アップル板橋練馬環七店

お車のご相談・
査定だけでもOK!
かんたん
入力

60

お電話でも受付中!

受付時間10:00 ~ 20:00

[ 未分類 ]
2008/08/31 (日) 17:43

柔道の達人 小説編 第二話

 黙っていた先生は、ゴホンと咳ばらいをひとつすると、口を開いた。


 「えー、前に下がりなさい。」


 「前に」と言われ、反射的に一歩踏み出した足にかけた重心を、「下がりなさい」で、踏み出していないほうの足に移動させつつ、ぐらぐらと揺れる者。進もうとする者、退こうとする者。各々、互いの挙動を観察し合う。生徒達に緊張が走る。


 思う通りの結果を得られなかった先生が、繰り返す。


 「前に下がりなさい。」


 「どうすりゃいいんだ?」、「常識的に考えて、先生との距離を縮めるよう、前に出るべき。」、「禅問答か?」、「先生の位置からすると、我々が前に出ることは、自分のほうへ下がってくるように見えるではないか。」、「文法的には・・・。」、刹那、いろいろな思考の波が錯綜する。それでも、意思の疎通がはかられたかのように全員、前に歩み出た。


 ざわめく生徒達をそのままに、何事も無かったかのように、先生は授業を開始した。




 ・・・・・・約一年後、我々は卒業式を迎えていた。卒業アルバムが配布される。M先生担任クラスのページには、先生の名言(迷言)として、「前に下がりなさい。」が記載されていた。


 柔道の達人であり、厳しく怖いM先生は、そのような人気を誇る先生でもあった。


 完

2008-08-31 17:43:30