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2008/08/09 (土) 22:01
連載小説 富士 第四話
連載小説 富士 第四話
駐車場へ戻る帰り道、土産物として蕎麦を売っている店があった。試食無料と書かれた幟が、やけに目立つように感じる。どうやらそれに空腹感を呼び起こされたらしい。
鎌田がそう言うだろうと思ったとおり、提案した。
「昼飯は、あれだな。」
当然のように、我々夫婦とも同じ考えであった。
暖簾を潜ると、狭い店内は混んでおり、十人ほどのカウンターと四人掛けのテーブルが三つあった。テーブルは満席であり、入れ違いに空いたカウンターのほうへ腰掛けた。二歳の娘は私の膝の上である。
このような行楽地で食べる特産物は、その場の雰囲気によってそんな気がするだけかも知れないが、大変美味しい。量も純然たる昼食としては少ないが、試食としてみればかなり多い。これには満足した。大人三人、子供一人にこんなにも立派な食事をさせてもらっては、試食無料とはいえ申し訳なくなった。夫婦は結局、土産用の蕎麦を二箱買った。買ってから、巧くやられたかなとも思ったが、これだけ満足させてもらえば、已むなしだ。